2012年7月30日月曜日

急増する「生活保護」を考える

「生活保護」に関しては、最近、多くの方から賛否両論の立場からのお話をお伺いします。
この問題は、単に「生活保護」だけの問題ではなく、その他の要因、年金や就労問題、ひいては教育にまで関連して論じなければなりません。
実際に池田市では、本年度より保護所帯の高校3年の受験生に対して塾に通う費用を補助する制度をスタートさせました。これは、貧困の連鎖を断ち切ると言う目的もあるのです。
このように人の生き方にまで関わる事なので、ある一面だけを捉えて議論できない問題なのです。
先日の公明新聞に、分かりやすく解説されていたので、紹介します。

「急増する生活保護を考える」 公明新聞2012728

 厚生労働省は先ごろ、生活保護受給者が1950年の制度創設以来、初めて210万人を超えたと発表した。受給者は長引く不況で安定就労に結び付かず、生活保護からの自立が一層困難になつている。一方で年金や最低賃金より金額が多いなどの問題も浮上している。そこで生活保護制度の方途を探るため、社会保障制度全般に詳しい慶応義塾大学経済学部の駒村康平教授に話を聞いた。

――生活保護受給者が急増しています。
 駒村教授 生活保護受給者が過去最高の210万人を超えたとの調査が出たが、内訳は65歳以上の高齢者が約4割を占めており、高齢化の進展が大きな要因となっているのは間違いない。一方で注目すべきは、「その他」に含まれる若い世代の増加だ【円グラフ参照】。



  生活保護の増減は景気循環とも連動しており、バブル経済が崩壊した1990年代半ば以降も若い世代の受給が増えた。しかし、2008年のリーマンショック後の増え方は著しい【グラフ参照】。
 長時間労働など雇用環境が大きく変化し、健康状態が悪化した結果、生活保護を申請するケースが増えていると考えられる。

――年金より金額が多いなど、生活保護制度の矛盾も表面化しています。
 駒村 高齢者の生活保護受給と年金の給付額は密接に関係している。基礎年金のみの受給者は830万人ほどだが、平均年金額は4万9000円で、夫婦でも10万円を割り込む。だが、70歳前後の世代は非常にモラルが高く、できれば生活保護は受けたくないという気持ちは強い。従って国会で議論されているように、年金に対する何らかの加算的給付や、低年金の高齢者には家賃部分だけでも補助するという考え方もある。

――年金が生活の糧にならないなら、最初から生活保護に頼るという声もあります。
 駒村 確かに現役世代は、生活保護に対する抵抗感が少ない気もする。だから早めに年金制度を補強し、立て直すことが大事だ。欧州では高齢者の所得補償は年金できちんと行っている国が多い。そこは日本も見習ってほしい。
 一方、若い世代は雇用問題がある。日本では非正規労働者に一度なってしまうと、なかなか正規にはなりにくい。正規・非正規の処遇格差が大きいので、歴生年金や健康保険問題も含め、非正規でも一定の生活ができるような仕組みが必要だ。

――生活保護は真に必要な人にだけ認めるべきとの意見があります。
 駒村 いわゆる“水際作戦”の強化には慎重な議論が必要だ。モラルハザード(倫理観の欠如)は心配だが、受給者の区別を強化すれば需給漏れの心配が起きる。そもそも日本の生活保護率は、先進国の中でも低いといわれており、受給資格のある人はもっと多い。生活保護は最後のセーフティーネット(安全網)だから、「真に必要な」という部分を強調し過ぎると、セーフティーネットが機能しなくなり、社会の底が抜けてしまうのではないかと強く懸念している。

――自立促進に必要な視点は何ですか。
 駒村 欧米では二つの考え方がある。一つは生活保護に長期依存している人に対し、減額や打ち切りを通達し、働いた方が手取りが増えるような経済インセンティブ(やる気)を付ける方法。
 もう一つは、その人の健康状態や生活習慣を改善させるとともに、働く準備としてボランティア活動などを通して徐々に社会生活に戻していく方法だ。前者に比べ後者は時間も必要だが、欧米では後者の方が成功している。日本でも包み込み、きめ細かい応援で自分の力で生きていけるように誘導することが必要だと考える。
 その意味では地域のさまざまな取り組み、NPO(特定非営利活動法人)や、自治体の取り組みが重要になってくるので、自立促進へ有効なプログラムを開発しないといけない。

――今後の制度の在り方は。
 駒村 90年代前半までは、終身雇用に代表される日本型雇用のもとで皆保険・皆年金が機能していた。しかし持代は変わり、25年くらいまでは高齢化が加速し、労働人口も減少していく。従来は自助と年金や健康保険などの社会保険制度(共助)がしっかりしていたが、今は自助、共助がほころんだ部分を全て公助である生活保護に押し付けている状態だ。
 この事態を解消するには、生活保護制度だけを見直せば済む問題ではない。自助のサポート、つまり雇用を創出できる成長戦略が必要であり、共助である社会保険制度も、保険料負担が重くて払えない人がいるなら、負担能力に応じた保険料にすべきだろう。自助、共助の立て直しが進めば、おのずと公助が担う役割も小さくなる。
つまり自助、共助、公助の三つが連動していくことが大事だ。
 そして、国民の権利として生活保護を受けることになったとしても、スプリングボード(跳躍板)としてもう一度、働けるようにきめ細かに応援してあげることが重要だ。

――貧困の連鎮も大きな問題になっています。
 駒村 生活保護の受給経験がある親のもとで育った子どもは、自分も生活保護を受ける可能性が高い。貧困の連鎖は地域によって深刻になっている。子どもは親の背中を見て育つので、親が働いている姿を見たことがない子どももおり、そうした環境が働くという意味を阻害していることも一因だ。また、家庭に経済的余裕がなければ、子どもの学力向上に充てる費用の捻出は難しく、チャンスにも恵まれない。進学の面などで教育格差が生まれてしまう。

――そうした連鎖を断ち切るための具体的取り組みはありますか。
例えば、埼玉県では高校受験を前にした生活保護受給世帯の子どもたちを集め、塾のようにきめ細かい学習支援を行っている。これは単に成績を上げるだけではなく、子どもたちに学ぶ習慣や社会との関わり方を身に付けさせ、。社会は見捨てていないというメッセージを伝えている。
 こうした動きは各地に広がりつつある。家や医療費、年金の一部を保障するという政策とともに、教育的支援、居場所の確保のような取り組みを全国的に行う必要があるだろう。

 最低賃金で働いた場合の収入が生活保護の支給水準を下回る「逆転現象」は現在、11都道府県で発生している【図参照】。
 これに対し、労使の代表と有識者による厚生労働省の会議は25日、2012年度の最低賃金(時給)を全国平均で7円を目安に引き上げることを決めた。
 厚労省の試算では、最低賃金の全国平均は744円に上昇し、逆転が生じている11都道府県のうち最大9都府県で解消される見通しだ。しかし、先の調査で生活保護費との開きが30円と最も大きかった北海道と、19円の宮城県では逆転解消は困難とみられる。
 最低賃金法では勤労意欲低下の恐れから、最低賃金が生活保護を下回らないよう配慮を求めており、「重要なのは生活保護の引き下げではなく、最低賃金
のアップだ」 (橘木俊詔・同志社大教授 毎日新聞=22日付)。
逆転是正は急務だが、経営者側は景気低迷や経営圧迫を理由に引き上げに慎重な姿勢を示している。


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