2011年12月28日水曜日

読書感想―「科学技術大国中国の真実」②

昨日に続いて、「科学技術大国 中国の真実」の感想です。
大きく次の3点について、なるほどと感心しました。


2009年の中国からの海外留学生総数は22万人を超え、帰国留学生数も10万人を超えており、いずれも10年前の1999年の10倍。
一方日本人留学生は減少しており、2009年は全体で7万5千人とピークの2004年の2割減。米国への留学生に至っては10年前に比べて4割減の約3万人となっているそうで、そうした状況を著者は以下のように語っています。

「拡散する中国、収縮する日本
海の向こう側に渡っていく中国人の増加は、政府主導による送り出し政策によるものだけではない。歴史に見られたように、さまざまな理由で多くの人が海を越えていった。特に沿岸部の中国人は、もともと大陸の外に出ていこうとする気質が強い。そうした気質がベースにあり、経済発展に伴って、さらに外への志向性を強くさせているとも言えるであろう。
翻って、日本はますます内向きになっている観がある。清華大学や北京大学といった中国の名門大学出身者が、どんどん海外に向かい、世界の舞台で大きく成長しているにもかかわらず、日本人は、あまり国外に出たがらなくなってしまった。
………
こうした、海外への一歩を踏み出す機会を逃している若者が多いのも事実である。それは、制度として用意されていないという問題ではなく、日本社会全体に漂う閉塞感、無力感が、敏感な若者の心に影響を与えていると見るべきである。日本全体が下を向いて歩き、お互いの足を引っ張り合っている時に、中国は「坂の上の雲」を見上げながら、一歩、一歩と成長を続けている。そうした異なる環境で育つ若者が、同じ世代であったとしても、異なる価値観や視野を持って行動するようになるのは、仕方のないことなのかもしれない。中国の若者が上を向いて外の世界に飛び出していき、日本の若者が国内の環境にとどまって身を守らざるを得ないのは、まさしく、こうした社会全体の雰囲気を反映しているからではないだろうか。」


中国の科学技術に関しては、研究者を大量に投入する必要のある「研究者集約型」の分野(高温超伝導技術や、バイオのiPS細胞研究など)において、中国は世界のトップランナーとなりつつあるそうです。
こうした分野では、日本において核となる技術的発見が行われたとしても、幅広い応用的研究が「研究者集約型」であるため、科学的業績や技術開発は、中国にどんどん水をあけられているそうです。
しかしまだ、ほとんどの科学技術分野においては、日本の方が中国に対して圧倒的に優位とのこと。ただし日本は科学技術投資が頭打ちとなっていて「投資と人」が不足しているので、新しい科学技術を産業化することが難しいとのこと。
それに対し中国は、政府主導で資源を配分できるので、科学技術に積極的で多大な投資を行い、その額は年々増加しているそうです。
こうした状況を踏まえて、著者の基本的な考えとしては、日本が中国に対して、いたずらに焦燥したり敵視したり、あるいは羨望したりしても仕方がない。現状認識と分業関係をしっかり整理した上で、日中関係をwin-winの関係として構築することが重要だと説いています。
具体的には、日本の先端的な科学技術を中国に提供する代わりに、あちらからの投資と人を呼び寄せる。そうすれば先の「研究者集約型」の分野などにおいて、日本にも多大な利益があるはずだと。すでに欧米諸国は、そういった考えのもと、中国の大学や研究機関と次々に連携関係を築いており、日本はやや遅れを取っている状況らしいです。


以上のように、技術開発において日本が中国と連携を深める必然性とともに、その際に留意するべき点として「標準化」をあげています。
日本は高い技術力を持っているが、しかしそれは独自な制度や慣習、および高い国民所得を前提とした「ガラパゴス的」な技術となっているため、中国においては、日本製よりも性能は低くても廉価であるサムスンなどの追撃を許している。
したがって、市場調査や的確な分析により、中国で本当に必要とされているのはどういう技術なのかという「市場ニーズ」を把握する必要がある。実際に、中国側が喉から手が出るほど欲しがっている「市場ニーズ」は少なくない。
日本は、高額の最高水準の技術を提供しようとするのではなく、こうした「市場ニーズ」に基づいた価格と技術レベルのバランス感覚を踏まえれば、十分それに対応できるとのことです。
更に、「標準化」された市場とは、均一化されたものを低価格で製造するというコスト競争の市場であり、特に中国においては中国企業の独壇場になることが考えられるので、標準化のため公開する技術と、秘匿化しておくコア技術の峻別も重要だと語っています。

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